忘れてしまってはいけなかったこと

母に言わせると、私は子供の頃、夢見がちというか、ちょっと不思議なところがあったらしい。
花壇の脇にしゃがんで、じっと花を見つめて動かないことがよくあったそうだ。
何をやってんのかなあと思っていたらしい。
その、何をやってんのかなあと思われていた時、何をやっていたかは、実は覚えている。
いくつの頃か忘れたが、私は、「なんで皆こんな大切なことを、大人になると忘れてしまうんだろう。私は絶対忘れないようにしよう」と心に誓っていた。そして、時々、確かめていた。
その時は、花壇の脇にしゃがんで、じっと下を見るようなポーズだった記憶がある。
花を見ていたのではない。何か自分の腹の底というか、そのずっと下というか、そんな感じなのだが、そこに意識を持っていくと、何か忘れてはいけないことが、確認できるのだ。そして私は、「うん、まだ覚えている。大丈夫」と思ったものだ。
いつの頃からか、何を「絶対に忘れないようにしよう」と思ったかを、忘れてしまった。知識が増えたからか、人間関係が広がったからか、文字を覚えたからか、理由は分からない。
それから何十年。時折、私は思い出す。「いったい何を忘れないようにと思っていたんだろう」
それは、ずっと続く私の疑問だ。なんだか抜けない刺がのどにささっているようで、小さいながらも、チリチリと時々、存在をアピールしてくる。
下を見て、なにかを確認して、「うん、大丈夫。まだ覚えている」と頷いたのだ。
いつもは気にしていないことなのだ。でも、確認するとわかる大事なことなのだ。それは覚えている。でもいったいそれはなんだったのか。
今、下を見ても、何もわからない。いつか思い出す日がくるのだろうか。
それとも、忘れてしまってもよかったことなのか。

2015-10-13 | Posted in つれづれ, ブログNo Comments » 

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