コウモリ

体調を崩して、1週間寝ていた。動けない、という状態で、本を読むでもなし、テレビ、ラジオでもなし、となると、つれづれ思い出したり、思いついたりの日々だった。そんな中から。

小学校の二階の図書館の屋根裏に、コウモリが住んでいた。夕暮れどきになると、校庭の上をよく飛んでいた。
手のひらをおにぎりを握る時のように丸くして、両手で打って「ポンポン」と音をさせると、コウモリがついてくる、というのが子供たちの決まりごとだった。確かに、「ポンポン」と手を打つと、コウモリはついてくる。ただし、どんなに遠くても、しばらく行って道が二つに分かれる橋のあたりまでで、そこまで来ると帰ってしまう。
小学校から私の集落までの1キロちょっとは、田んぼの中の一本道。街灯も車もほとんどないのんびりした道を、夕暮れ時に、「コウモリがどこまでついてくるか?」などと、友だちと言いながら帰るのは楽しかった。
ある秋の日だったと思う。かなり日が短くなっており、学校を出た時点で、すでに薄暗かった。群青色に暮れている空に、黒い小さな影となって、コウモリが飛んでいた。
友達と、「ポンポン」と手を打ちながら、コウモリを連れて、歩いていった。道が二つに分かれるところで、私は友達と分かれて一人になった。その日は、どうしても、もっとコウモリと歩いていたかった。
私は、一生懸命、「コウモリさん、もっとついてきて」と思いながら、手を打っていた。
すると、その日は、なぜかコウモリがずっとついてきてくれた。いよいよ集落に入り、あと4軒で私の家という小さな橋のたもとで、私は、「どうしよう。こんなに遠くまで連れてきてしまった。コウモリさんは帰れるんだろうか。私ももう家に着いちゃうし」と、急に悪いことをしたような気がして、立ち止まってしまった。ほとんど黒に近い群青色の空を、コウモリは黒い影で飛んでいる。「どうしよう」と、思いつめて、コウモリから目を離した、その時。
急に耳元で、バサバサっという大きな音がした。私はびっくりして、あわてて両手を振り回した。そして、気がついたら、コウモリはいなくなっていた。
「さっきのはコウモリさんだったんだ」と思ったが、後の祭り。
せっかく、一生懸命、ついて来てと頼んで一緒に来てもらったのに、なんてひどいことをしたんだろうと、悲しかった。きっと親愛の情をこめて、肩に飛んで来てくれたんじゃないんだろうか。ごめんなさい。しょんぼりと家に帰ったのを覚えている。
先日、急にこのことを思い出した。家が近くなって、どうやってさよならを言おうか悩んでいた私に、コウモリが「さよなら」を言いに飛んで来たのではないだろうか。そして、もしかしたら、コウモリが、「突然肩にとまって、びっくりさせて悪かったな」と思っていないだろうかと、ふと思った。
だったらいいな。ちょっと気が軽くなった。
その後も、コウモリは飛んでいたし、「ポンポン」と打てばついてきたが、いつもの場所よりもついてくることは無かった。でも、あの時は確かに、私たちは友だちだった、と思う。

2015-12-18 | Posted in つれづれ, ブログNo Comments » 

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