瓦の雨


久しぶりの雨である。猛暑続きだっただけに、なんだかほっとする。庭の木々も嬉しそうだ。

父は全集好きだった。小さい頃は、「少年少女のための世界文学全集」を買ってもらい、何度も読んでいた。美術書もあった。世界の名画全集、日本の名画全集、浮世絵全集。近現代の画家だけを集めたものもあった。日本の名宝全集のような工芸品を集めたものもあった。私は子供の頃、片っ端から、時間があると読んでいた。どれもこれも好きだった。
ある日、父が、「この絵が好きなんだ」と言って、見せてくれたのが、福田平八郎の「雨」だった。それは、瓦屋根のアップに、降り出した雨が点々と滲んでいる絵だった。
「これ?」、最初はよくわからなかったが、とても印象に残った絵だった。
屋根の上で遊ぶのが好きだった私は、陽にあたって乾いて暖かくなった瓦に、ポツポツと雨があたっていく、その感じが、絵を見ているうちに肌で分かった。
これは「水」の絵だ。
暖かい瓦にあたった雨は、すぐさまいくらかの水分は、ぽわっと蒸発していく。あたりはたちまち柔らかい湿気に包まれる。
日本は湿気が多い。空調の無かった時代は、湿気とともにある生活だ。
湿気の多い空気、湿気の多い自然環境、その中で演奏する邦楽は、湿度の多い空気をわたる音なんだろう。
そう考えると、邦楽は水の音楽ともいえるのかもしれない。
私は瓦が好きだ。濡れると、みずみずしく濃い色になり、土蔵の白壁に映える。
「雨」が好きな父は、なぜか家を建てる時に、一階の屋根を赤いトタン屋根にした。母は反対だったそうだが、父が押し切ったらしい。札幌生まれの父は、赤い屋根に郷愁があったのだろう。父はハイカラなものが好きだという印象だったが、思い返せば、本は日本の伝統美というものが多かった。憧れと郷愁。あの時代の日本人はそうなのかもしれない。
もし私が家を建てるとしたら、やはり瓦屋根の家かな。

2015-08-20 | Posted in つれづれ, ブログNo Comments » 

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