三重の虹

秋が来た。

地平線が見えそうな位だだっ広いところで、見渡す限り自分一人というような経験は、あまり日常ないかもしれない。
私は、小中学校を通じてよくあることだった。
100軒程の自分の集落を出ると、一面の田んぼ。その田んぼの中の一本道の1キロちょっと先に、学校が見える。小中学校は隣同士だったので、この通学路を9年間通った。
行きはだいたい弟や近所の友達と一緒だったが、違う方向の友達と学校で遊んでいると、帰りは一人だ。
地平線まで見えそうな位の田んぼの中を、一人で帰る。
この9年間で、私は美しいものを沢山見た。目の前の里山に夕日が沈み、空が全部真っ赤に染まった夕焼け。田んぼが蓮華草に覆われて見渡す限りピンクの絨毯になった春。田植え前の田んぼに水がはられると、まるで海の中を歩いているようだった。そこに空が映ると、今度は空を歩いているような気分になる。苗が伸び始めると牧場のような草の海になり、稲穂が実ると一面黄金色になる。雪が降れば、見渡す限り真っ白で、音が吸い込まれたようにしんとなる。切り株に丸くつもった雪は、まるでお饅頭。これが本物だったらなあとは子供の頃よく思った。降り始めの雪が、欅の細かい枝にうっすら積もっているのは、繊細なレースのようだった。
中でも、一番きれいだったのは、三重の虹だ。これは、たった一回だけ見た。一人での帰り道だった。雨が晴れ、日が差して来た時に、「虹が出るかも」、と振り向いたら三重の虹が出ていた。田んぼの真ん中なので隠すものもなく、地面から立ち上がった半円の虹が、三本。本当にきれいで、消えるまでずっと見ていた。
それ以来、虹は私の吉兆になった。雨が残っていて日が差すと、いつも虹を探してしまう。
3年前の春、雨が上がり日が差して来た。いつものように空を見上げた私は、そこに青空の上にきれいな虹がかかっているのを見た。雲をバックにでることの多い虹だが、その時は本当にきれいな空色の上の七色の虹だった。
「きっと良いことがある」
なんだか嬉しくなった。
その数日後に、田植え体験に訪れた生産農家のKさんとは、すっかり仲良くなり、お弟子さんたちと毎年田植えのお手伝いに行っている。土と共にある生活。山の恵。おばあちゃんの知恵。様々なことを教わった。虹を見たときの予感は当たっていた。
虹はやはり吉兆か。
いつかまた三重の虹を見たい。さえぎるもののない広い場所で。
すごく良いことがおきるかもしれない。

2015-09-04 | Posted in ブログ, 自然No Comments » 

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