父、逝く

父が、亡くなった。痴呆症を患ってはいたが、とても元気で、食欲もあり、体もどこも悪くなく、薬も一切飲んでいなかった。
その日は、敬老の日だったので、夜、電話をした。いつもは、「ああ」とか「うーん」とかしか言わないのに、その日は、はっきりと「私は元気です」と言った。
「今日はすごいね」と母と笑いあい、週末に会えるのを楽しみにしていた。
そして、その夜、せき込んだと思ったら、母の見ている前で、すーっと息を引き取った。
何が起こった訳でもない。自然死、と病院では言われた。
深夜、家からの電話で、「亡くなった」と言われた時は、信じられなかった。「だって、さっき電話でしゃべったばかりなんだよ」と、言うのが精一杯だった。
翌日の夕方、家に着いた。
タクシーから降りたら、金木犀の香りが、あたり一面漂っていた。
通夜、葬儀、初七日まで、いつも家の周りは、金木犀の香りに包まれていた。
帰った日、玄関の前に、ホトトギスが咲いていた。
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の 月ぞ残れる
ああ、父は、逝ったのだ。

2018-10-03 | Posted in つれづれ, ブログComments Closed 

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