レモンと蝶々
出稽古に伺った時、お庭を眺めるのが好きだ。
「あ、今年は順調に実がなっていますね」
昨年は、花が咲いたのに一個も実らなかったレモン。今年はたくさん実がついている。でも、何か変だ。
葉っぱが全然無い。
「アゲハチョウの幼虫がいてね。全部食べられちゃった」
にこにことご主人が笑って教えてくれた。大事にしていたレモンの鉢が丸裸、さぞかしお怒りでは。
「それでどうしたんですか」
「全部食べるまで、ほっときました」
ええっ!
「だって、かわいそうでしょう。幼虫が」
ええ、、、。
「よくしたもんで、また新しい葉が出てくるんですよ、ほら」
よく見ると、枝の先に、何枚かの葉が。
「で、虫はどうしたんですか?」
「葉っぱが無くなったら、自分たちでどこかへ行きましたよ。餌のある他の場所へ行くんでしょうね」
とまた、にこにこ。
「そうなんですか」
幼虫を育てたレモンと、それを見守ったご主人。
色づいたレモンは、やがてお弟子さんのお宅の食卓へ。
そして来年の受粉の時、蝶々がまたやってくるのだろうか。
こうやって世界は回っているんだろうか。
お庭の鉢の小さな輪。やさしい輪。