月がきれいですね
先日、朝の連ドラを見ていたら、大学生の男性が、主人公に向かって、「月がきれいですね」というシーンがあった。これを見ていた主人公の妹が、「きっとあの方はお姉さんが好きなんだわ」と言う。その根拠は、「だって、夏目漱石が言ったのよ。「アイ ラブ ユー」を「我汝を愛す」と訳した学生に、「日本人はそんな言い方をしない。月がきれいですねとでも言っておきなさい」って」と続くセリフにある。
たしかにそうかもなあと思う。端唄の文句にも、「我汝を愛す」なんていうのは、まず無い。
今日は雨。こんな端唄を口ずさみたくなる。
からかさの 骨はばらばら 紙ゃ破れても
離れ 離れまいぞえ 千鳥がけ
これはもちろん傘の唄ではない。私とあなたは、決して離れないわ、という恋の唄である。
「我汝を愛す」と言われるより、ずっといい気がする。
「我汝を愛す」だけじゃ、その言葉に乗せきれない思いの方が、ずっと沢山あるような気がする。言葉にしてしまった瞬間に、「そうじゃないんだ。それだけじゃないんだ」という思いになってしまう。
だから、「愛す」ではなく、「からかさ」なのだ。
この最後の文句を、「命がけ」と覚えていた人がいた。気持ちはそうでも、やっぱり「千鳥がけ」の方が、ずっといい感じである。