大きな椿の木 2020
子供の頃から、ずっとある大きな椿の木。私が木登りをする木だった。つるつるした幹にちょうどいいでっぱりがあり、そこをつかみながら登る。少し上に木の股があって、そこまでは、頑張っていけた。
そこに座ると、たくさんの葉っぱにつつまれて、それだけでほっとしてうれしかった。葉の隙間からのぞく空も好きだった。
花の季節は最高だ。椿の花は、蜜もある。
認知症を患った父は、赤い花が好きだった。
一面に散り敷いた椿の花を、ある日父と拾った。垣根の枝の中、落ち葉の中にまぎれている花びらなどは、きりがない。「もうそろそろやめようよ」といっても、父は、「まだまだある」と、一心不乱に拾っていた。
椿の花が散り始めると、あの日を思い出す。
大好きだったと父と椿の木。