ご苦労!
江戸の化物が好きだ。豆腐小僧は、かわいくってかなりお気に入りだが、一番「おもしろい!」とはまったのは、「大侍」だ。
御殿で夜詰の番をしている侍たちが、夜も更けて眠気に耐えられず居眠りを始めた頃に、その化物は出る。
その出方はこうだ。さらさらっと唐紙が開き座敷いっぱいにはみ出そうな大きさの大侍が顔を出す。「ひえっ」と肝をつぶす侍たちに、ただ一言、「御番の衆ご苦労」と言うだけだ。
なんなんだこれは!これを見た時は、ただただ笑えた。
もし、会社勤めをしていた時に、残業中にこんなのが出たらどうだったろう。でも、会社は、唐紙じゃなくてドアだから、こんなに大きければ顔全体が出ることがなく、面白さが半減だ。だからといって窓全面というのもどうか?第一、高層ビルなら窓が開かないので、せっかく「ご苦労」と言ってくれているのに、何を言っているか聞こえないではないか。う~~ん困ったなあ。などと、真剣に考えさせてくれる、そのことがすでに面白い。
江戸の草双紙には、化物がたくさん出てくる。化物たちは、どんちゃん騒ぎをやったり、結婚したり、人間に脅かされたり、脅したり、忙しい。そして、楽しそうだ。
もしかして、人間の世界よりも楽しそうだったりする。そして、人間の世界と変わらないかもと思ったりする。
江戸は面白いなあ。
(図は、「江戸化物草紙」小学館より)